会社設立にあたり、背景を述べさせていただきます。

学生時代に、某大学教授が書かれた自叙伝に触れる機会がありました。そこには、「自分は  エールリッヒを師事し、化学療法の道を歩む。がんに苦しむ人を救うため抗がん剤を探し求める。一生かけても見つからないかもしれない。それはそれでいいじゃないか。」とありました。その情熱に胸を打たれたと同時に、本当に見つからなくてもいいのだろうかとも思いました。

晴れてその先生が主宰する大学の医学部付属研究所に入門させていただき、当初はインスリンの経口投与化から血糖降下剤の開発、ウイルス誘導糖尿病モデルの作出と発症メカニズムの解析、抗ウイルス剤の開発などを行い、幸い糖尿病薬は発見から市場に送り出すところまで従事することが出来ました。

しかし副作用のない薬はできないものだろうか?という思いと、抗ウイルス剤の候補化合物など様々な生物活性を有する「医薬資源」を保持していたので、これらを適材適所で何とか人の役に立たせるようにしたいとの思いからベンチャーを起業いたしました。

ご挨拶が後になりましたが、このような発想から生まれた、経営的には素人の企業ですが、弊所の技術や資源が何かのお役に立てることがありましたら幸いです。

収益を伴う事業展開では弊所、医薬資源研究所として、純粋にアカデミックな研究活動は別途、生物活性研究機構として歩んでまいります。

大きなことはできませんが、様々な可能性のある小さな資源を見出し、膨らませていくような事業を目指します。

2021.夏
池袋の半地下ガレージの一角をお借りして立ち上がった会社も設立から8期を迎え、振り返ると「医薬資源」が少しずつ実を結び開花しつつあります。

  1. 一連のポリ酸化合物から抗腫瘍効果、抗菌、抗ウイルス効果など構造活性相関が見出されるまでになっています。これらは東京工業大学の研究基盤によるものです。
  2. この中の抗ウイルス活性化合物の数種は、共同開発企業により衛生製品に配合されています。(おしぼり、ウェットティッシュ、アロマ製品、ユニホーム、きもの、クリーニング加工、足拭きマットなど)
    今後文房具や樹脂製品へと展開が計画されています。(Pharmacology 2019, Applied Sciences 2020)
  3. この抗ウイルス活性化合物の一部は化粧品素材としても開発中であり、広義のアンチエイジング作用を見出し、論文化しています。横浜薬科大学の先生方と共同研究を実施させていただいております。その繋がりをいただき、改めて漢方薬の研究を再燃させています。
  4. 健康食品及び化粧品の範疇では、副作用の少ない材料としてたどり着いたPlacenta Extractsを研究材料として、in vitroから動物実験の検証を通じて、免疫活性化、抗腫瘍効果、血管内皮細胞における抗炎症効果(動脈硬化に対する効果)、糖代謝、エネルギー代謝、腸内環境など広範囲の活性が見出されました。現在は細胞老化にも関わることが示唆され、さらなる検討が必要になっています。
  5. 別のポリフェノール系食品抽出物においても抗酸化力をもとに、数種Heat shock protein-mRNAの誘導、AGEsに対する分解処理能力などを解明することができました。(Functional Foods in Health and Disease 2018, 2020)
  6. 再生医療の範疇では、幹細胞及び幹細胞培養液中のExosomeに着目し、検証を行って来ました。特に最近では皮膚線維芽細胞への糖化ストレス、酸化ストレス下における活性酸素の抑制効果を見出し、汎用性が広がっています。(Molecular Biology Reports 2021、投稿中論文;1報)
  7. 遺伝子解析技術を駆使して、皮膚常在菌のタイピングによる肌の性質を見極めるツールや医療機関との連携によりがん細胞由来、幹細胞由来のExosome解析や新型コロナウイルスに関連した研究解析事業にも取り組んでいます。特にがん細胞由来Exosome解析の技術は東京都中小企業振興公社のご援助をいただきながら中国、台湾と、それぞれ共同特許出願を行い、事業化に向けて動いております。
  8. 腸内フローラに関連して、腸管上皮細胞の菌の吸収に関する検討から、菌を懸濁する溶液によって菌を認識する機構や吸収効率に変化が起こることを突き止めました。(Bioactive Compounds in Health and Disease 2020)
  9. その他受託研究を介して、様々な民間療法的な素材からも免疫機能を高めることで、がん細胞の増殖を抑制するような作用が見出されたこともあり、まだ眠っている「医薬資源」が多いことを感じています。(Pharmaceutical Frontiers 2019)
  10. 大学院生の研究もサポートしながら、これまでに3人の博士論文(4報)のお手伝いをしてきました。(Oncotarget 2014, Pharmacology 2016, COGENT biology, 2019, Pharmaceutical Frontiers 2019)

これらのエビデンスが医薬品に直結するわけではありませんし、医薬品が万能なわけではありません。まず望まれる活性があるのか、探すこと、明確にすることは必須な作業だと考えております。近年、コンピューター上で薬効を探る学問も普及しており、それはそれで画期的なことではありますが、それぞれの情報を付き合わせていきながら相乗効果が生まれれば良いことだと思います。

我々はこれらのエビデンスから選りすぐって、世界で通用することをめざしており、現在、中国、台湾とは現地の医師、国家公務員などと提携して順次事業化を進めている段階です。